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希死意無ハウス

多分絵とかクソSSとか作る。

私達の行く先は天ではなかった。

第伍話 ミーティア・ファウストの場合②

十二月。寒さも厳しくなり、和服では凍えてしまう今日この頃。
今日になって初雪が降り、勝手に住み着いている日本家屋ではすきま風が多く、いよいよ厳しくなって参りました。
私は目覚めると、まず、お姉様と共用の着物を嗅ぎ、纏い、それから紫色の髪飾りとカチューシャを身につけます。
キッチンに立ち、お姉様の寝ぼけた姿を想像しながらのんびり料理を作るのです。それから、
「お姉様!お姉様ってば…朝ですよ!」
こけこっこー、とニワトリの真似をしながら私はお姉様を叩き起こします。
お姉様ってば着物の着付けも自分で出来ないんですから、鳥なのですし早起きくらいはマスターして欲しいものです。
数百年連れ添っているのに、お姉様はどうしても朝が弱いようです。
「ミーティア、おはよう……朝ごはん出来てる?」
ええ、もちろん。私はにっこり笑ってお姉様の手を引き、食卓へ案内します。
今日のメニューはウインナーに玉子焼き。ハムも添えてあります。我ながら今日の玉子焼きは上手に出来たのではないでしょうか。
「あんたって最近になってやっと虫料理以外も出来るようになったわよね」
「失礼ですねお姉様、私は虫料理が好きなだけで他の料理が出来ない訳ではないのですよ」
「どこまで本当なんだか。……ん、おいし」
口では反論していますが、本当は私にだけ失礼な事を言ってくれるお姉様が本当の本当に愛しくて仕方ありません。でも、私は青い髪をそっと数本抜きました。
「今日も愛していますよ、お姉様」
「ああ、そう」
無関心なところも含めてとても大好きです。
食事を終えると、お姉様は朝の占いをします。水晶に向かって何かを呟いてしばらくした後、私に何か道標を与えてくれるのです。いつもの通りあまり当たったことはないのですが……。
私も最近はそれに倣って朝はタロット占いをするのが趣味です。勿論、こちらもほぼ当たりません。私はカードを出して、手順のままに占いをします。そして最後に一枚のカードをめくるのです。
「恋人の逆位置……」
嫉妬。あまり良いものではないですが、お姉様ほど信心深くない私は心の片隅に置く程度で、あまり気にしないことにします。
嫉妬深い自覚はありますけれど大丈夫だと信じたいです。
「ミーティア! ミーティア~!」
お、どうやらお姉様の占いも終わったようです。私はお姉様の自室に駆けていってそっとふすまを開け、お姉様に尋ねます。
「お姉様、今日はどうでしたか?」
「あんたは今日、なんと嫉妬心に苛まれる。くれぐれも注意することね。」
……嫉妬心。なんと私の占いと一致しています。今までこんなことなかったのに。驚いた私はその旨を伝えると、
「まぁ……信じるも信じないもミーティア次第よ」
と適当な答えが返ってきます。
「それ、都市伝説の決まり文句じゃないですか」
「そうだっけ?良いのよ、今の時代は占いなんてそんなもんだから」
「占い師の言う台詞じゃないです!」
もう。私はいつもお姉様に感情を動かされています。……良くも悪くも。
私はもう四本、髪を抜きました。

朝の占いを終えて、私に適当な忠告をしてきたお姉様は再び寝静まります。それも日が暮れそうになるまで。
なぜかと聞くと、「占い屋は夕方が一番信じてもらいやすいのよ。かの最悪な指導者だって夕方にばかりスピーチをしていたそうだわ。だからそれまで寝る」とのこと。全く、二重の意味で酷い話です。
そんなに寝ていたら鶴が人を経て猫にでもなってしまうのではないでしょうか。
でも、そんなお姉様は今日に限って「用事がある」「決してふすまを開けてはいけないからね」と仰り、それっきり水晶を持って部屋に籠ってしまいました。何があると言うのでしょうか。
私は疑問を抱えつつ、仕事部屋に入ります。そこには一つの大きな機織り機。
これがなくては私達ファウスト家は生計が立てられません。共働きでないといけないというのは大変なものです。
……お姉様が朝から晩まで働いてくれたらきっと私だってもう少し楽出来るのに。
そんなこんなで、私は懸命に布を織ります。音のリズムが気持ちいいです。
印刷技術の確立された今、仕事は大幅に減っていますが、それでもお得意様がいるというのはありがたいことですね。
私は織り終わった布を見て、卸すには少し華やかさが足りないなぁということを考えます。そこで、私の魔法が役に立つのです。
私は鶴(本来の姿)の羽部分だけ変身を解き、魔力の籠った白い羽を無理矢理引きちぎります。
最初はすごく痛く、耐え難いものでしたが、お姉様に捨てられることを考えるよりはよほどマシです。今ではお姉様を養うための愛しい痛みとすら感じます。
私はその羽で布を丁寧になぞっていきます。すると、なぞった部分が別の色に染色されていくのです。
この染色魔法は、どんな洗濯をしようとも色が抜けることもありません。糸の組織一本一本にまで綺麗に染めるからです。
……でも、お得意様は今回も喜んでくれるでしょうか。私は不安になって、また髪を抜きました。


ミーティア・ファウストの場合②

2023/02/16 up

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